悪人正機

悪人正機 (新潮文庫)

悪人正機 (新潮文庫)

この本で初めて吉本隆明関連の書籍に触れた。前から読みたいとは思っていたものの、どれから読んでいいか分からず二の足を踏んでいた。

感想はというと、考え方が一見変わってはいるんだけど、よくよく考えてみると確かにそうだと思わせるおっちゃんなんだろうなということ。それと、ある文章を読んだときに、この人の言おうとしていることは要するにこういうことかと思いつくのだけれど、実はもしかするともう少し深い意図があって言ってるのではないか、と思わせる部分がある。それこそ、深読みなのかもしれないけど。まあ、もう少し他の著作も読んでみたい。

面白いなと思ったところをいくつか。

まあ、挫折を知らないからダメだって言われても、どうすることもできないわけだからね。
(中略)
だって、そう言われても、それ以上のこと、例えば「わかりました。これから挫折してみます」ってことを言えるわけじゃないし、言ったほうだって「じゃあ、ここへ行って、こうして挫折してこい」って紹介することもできないんだしさ。
p45

最近の若者は○○だからダメだ論で、○○の中に入る言葉トップ10には入るだろう「挫折」。まあ言われてみれば確かにそうで、進んで挫折ができるわけじゃない。とまあ納得するものの、「挫折」の類語として「失敗」があるわけで、失敗を繰り返す日々のなかで改善していくこともあるよなぁとか思う。吉本隆明の言葉とはてんで見当違いな話になるけれど、トライするから失敗があり、成功がある。見当違いついでにものすごくあやふやな記憶だが思い出した名言。「人生には大きく分けて2つある。失敗もするが成功もする人生と、失敗もしなければ成功もしない人生の2つだ」

自己評価ってあるでしょう?自分が自分で、こういうことが得意だとか、この程度のことができるとかの評価をしますよね。
(中略)
それで、その自己評価よりもしたのことだったら、何でもやっていいって考えてるんですね。
(中略)
このことは、自分の経験からわかったことですけどね。自己評価のもうちょっと上の、見せかけくらいだったらやっていいんじゃねえか、みたいに思ってやったことは、ことごとく失敗したんですよ。
p177〜178

これも割と意表を突かれた話。他の場面で、分かった振りをしないという話をしていたが、それと近い話かもしれない。要は、虚栄をはらないという感じだろうか。確かにきっと誰しも多少は自分を過大評価しているというか、言い換えるならば未来の自分に過剰に期待している部分がある。それじゃダメよ、自分の身の丈を知り、それに見合ったことをしなさいということか。これは結構難しそうだな。単なる素直さ以上の素直さが必要かもしれない。

「酸素と水素」を見つければ、「水」ができる。
どういうことかというとですね、要するに、水が「酸素と水素からできている」ように、分析したい問題を「水」として、「酸素と水素」にあたる情報がなんなのかをうまく見つけることができれば、どこの国のどんな問題だって、だいたい当たるんじゃないかっていうことなんです。
p253

うーん、簡単に考えれば、問題を構成している要素は大まかに言うと何なのかを見つけろということなんだろうか、と思うのだけれどもう少し別の意味があったりするんじゃないかと訝しんでしまう。それにしても、面白い表現。

とまあこんな感じ