架空の存在によって、立ち上がるもの

そう言えば、くだんの床屋の主人は、「死ぬのが怖い」と洩らしたこともあった。私はそれに対して、「生まれてくる前のことを覚えてるのか?」と質問をした。「生まれてくる前、怖かったか?痛かったか?」
「いや」
「死ぬというのはそういうことだろ。生まれる前の状態に戻るだけだ。怖くないし、痛くもない」
人の死には意味がなく、価値もない。つまり逆に考えれば、誰の死も等価値だということになる。

これは、伊坂幸太郎死神の精度の中の一節。感動した。

死神っていう架空の存在にこう語らせることによって、初めて立ち上がる何かがこの一節にはあるよね。

でもさ、きっとさ、死ぬことの怖さって、生まれてくる前がどうだったかっていうことに関係なく、生まれてしまったがために、この世に存在してしまったがために、自分が存在しなくなることの寂しさとかに起因するのかなと思う。